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ハラスメントに対する社内の制度作りと私がパワハラ相談で大切にしていること

ハラスメント規制法が成立し、社内の制度づくりが求められます。どのような制度を作ればよいか、ポイントを解説し、最後に私がパワハラの相談を受けたときに大事にしていることをお伝えします。

 

【求められる社内の制度づくり】

.事業主の方針の明確化と周知・啓発活動の実施

 ①ハラスメントの内容及びハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、役員、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発をする。

②ハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処内容を就業規則等に規定し、役員及び管理・監督者を含む労働者に周知・啓発をする。

 

2.相談や苦情への対応

 ①実質的な対応可能な相談窓口の設置

 ②相談窓口での適切な対応を可能とする組織、研修制度、マニュアル等の整備

 

3.事件が発生した場合の迅速かつ適切な対応

 ①相談窓口担当者やハラスメント委員会等による事実関係の迅速かつ正確な確認

 ②行為者に対して規定等に基づく必要な懲戒その他の措置を講ずると共に関係の改善援助、配置転換並びに行為者の謝罪等の措置

③被害者に対する適正な配慮措置として関係の改善援助、配置転換、行為者の謝罪、被害者の不利益の回復並びにメンタルヘルス不調への相談対応等の実施

 ③再発防止措置として、前記1-①及び1-②の事業主の方針を改めて広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等を実施する。また職場におけるハラスメントに関する意識を啓発するための研修や講習等を改めて実施

 ④その他併せて講ずべき措置として、当事者間のプライバシー保護のための措置の実施と周知。相談、協力等を理由に不利益取扱いを行わないことの周知、啓発

 

4.適切な懲戒処分と被害者のメンタルヘルスに関する休職・復職等も含めた支援措置

 ①就業規則等で、適切な懲戒事由の列挙と懲戒手続きの記載を行い、その内容に基づき、懲戒処分を実施します。

②被害者がハラスメントにより、心身にストレス等により不調を訴える場合は、早期の医療機関の受診の勧奨及び療養の為の休職も視野に入れた話し合いを本人と行います。

③再燃、再発することの多い心の健康問題について、休業を繰り返させないために、職場復帰支援の重要性を認識し、職場復帰プログラムを策定します。

※具体的な職場復帰支援プログラムはご相談ください。医療機関、ご家族、企業及び産業医を包括して巻き込みながら、継続して就業定着できるプログラムをご提案します。

 

5.資料等の保管

 ハラスメント事件に関しては、処分後に行為者と被害者の意見が食い違い、訴訟に発展する可能性もあります。従って、ハラスメント行為の認定の基礎となった各種の資料は証拠として使用できるようにきちんと整理し、厳重な保管をしておきます。

 

6.マスコミ対応

<被害者側のマスコミ対応>

 ・マスコミから保護を必要とする場合

   ①マスコミからの被害者の保護

   ②マスコミからの取材への対応

   ③マスコミによる名誉棄損やプライバシー侵害への対応

  ・マスコミを活用する場合

   ①マスコミ発表の是非の検討

   ②記者会見の発表方法の検討

 <事業者側のマスコミ対応>

  ・一般社員 

①単発事件では、原則、マスコミに積極的な情報提供は行わない

②長期・繰り返しの事件や、複数事業所での発生事件では、コンプライアンス体制への懸念による企業イメージの悪化の可能性を検討しマスコミ対応の要否と程度を決定する。

・役員・幹部社員

①基本的には、不用意な情報流出を防止する配慮が必要

 ②マスコミへの情報流出の有無やSNS等による情報拡散の有無等を確認の上、事案の性質、既に報道されている場合、情報の真偽や内容等、事業者の事業内容により、マスコミ対応の要否と対応する場合の程度を決定する。

 

【私がパワハラの相談を受けたときに大切にしていること】

ここまで主に法律面を中心に解説をしてきました。しかし、法律だけが判断基準ではありません。本当に重要なことはすべての社員がこの会社で働いてよかったと思えることです。

 

1.早期の対応をすること

パワハラは役員や管理監督職が行為者である場合が多いです。一般社員はパワハラにすぐ気づきますが、上層部は気づきにくいものです。一般社員にとって、パワハラ窓口に相談をすることは抵抗感が強いです。会社がわかってくれるのか、不利益を受けないかといった懸念があります。その結果、パワハラは放置されがちです。

だからこそ、パワハラの懸念があると感じたら早期に対応することが必要です。早期に発見できたら、本人に「パワハラの懸念があるよ」といった軽い口頭注意で済むケースが大半です。被害者も行為者もあまり大きな傷になる前に行動することが重要です。

 

2.パワハラ行為に至った背景に意識をむけること

過去に相談を受けた多くの事例では、被害者がたいへんな状況になっている一方で、行為者も悪意を持ってパワハラ行為をしていることはほとんどありませんでした。責任感が高い人がストレスを感じる状況があり、行動が先鋭化していることが多くありました。

パワハラ行為は決して許されるものではないことは大前提ですが、周りからすると理不尽と思える内容であったとしても、行為者は何かの理由があって行為をしています。そこで、パワハラ行為に至った背景に意識をむけるようにしています。パワハラ行為に至った企業内の問題、個人の過去・現在に至る人間関係の問題など、本質的な背景をしっかりと意識をむけてかかわることが、社員にとっても企業にとっても健全な姿を取り戻すきっかけになります。

一度のパワハラで解雇になることは刑事事件にならない限りはありません。したがって、パワハラの懲戒を与えた後も行為者は会社に残ります。中小企業であれば、配置転換が難しい場合が多く、上司と部下の関係が継続することもあり得ます。だからこそ、行為者の背景を理解し、行為者が再発しないように話し合うことが求められます。